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今回は一味違うかもしれない。遊川和彦『ハケン占い師アタル』第1話

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みなさん、どうでしょうか。まだ第1話しか観てないけど、自分は結構いいなと思って観てるんですけど。アタルを演じる杉咲花は元々この作品じゃなくても二面性を持つ役が多い俳優ではあるけれど、ここでの親しみやすさと冷酷さと一瞬で切り替わる感じは観ていて飽きないし、マチルダみたいなビジュアルも個人的にはキュートでツボです。

評判がいいかって言うとわからないし、いや確かに、これまでの彼の作品と比べて同じ、過去をなぞっていると言われたらそうなのかもしれない。現代の労働問題を扱ってはいるけれども、例えば小澤征悦の演じるパワハラ上司なんてあまりにもステレオタイプな描かれ方で、不快感を感じる人もいそう。アタルのキャラクターだって、『女王の教室』から脈々と描き続けられてきた"スーパーキャラクター"*1そのもので進化がない。志田未来が演じる神田和実*2だって、キャラクターのリビルドだと言えば聞こえはいいけど、使いまわしていると言われたらそうなのかもしれない。

女王の教室』の時だってそうだけど、遊川和彦の作品はいつも賛否両論のものが多くて、自分も彼のその過激さや過剰さから観るのを避けてきた作品もある。ただ、遊川和彦がそうやって過剰に繰り返し同じものを描いてきた作家だからこそ強度を持っているのも確か。

今まで遊川和彦はひたすら愛の話ばかり書いてきたけれど、それは過剰な絶望とともにあった。『女王の教室』の阿久津真矢(天海祐希)は最終回のラストまで微笑むこともしなかったし、『家政婦のミタ』は絶対的に君臨する三田(松嶋菜々子)とどう心を通わせるかが課題だった。最終回、主人公(柴咲コウ)が襲われて死亡するという『◯◯妻』だってある。『純と愛』では主人公(夏菜)の父(武田鉄矢)は死に、母(森下愛子)はアルツハイマーになり、経営していたホテルは燃えて旦那(風間俊介)は植物人間になる。そしてそのままラストを迎える。今まで彼が愛を描くには、同時に多くの障害が必要とされてきたのだ。

前作の『過保護のカホコ』もそうだったけど、この『アタル』が過去の遊川作品と大きく違うのは、初めから愛を肯定していること。遊川は『純と愛』でも超能力を話に用いたけど、それは『他人の醜い感情を知ってしまう』絶望の象徴としての描き方だった。けれど、今回のアタルはこの力で、和実が自分自身を愛することを肯定してみせた。それも1話から。アタルは二面性を持つヒロインだが、言ってみればその二面性はかつての和美の前に君臨した阿久津真矢のような冷徹さと、最終回の笑顔の真矢や『過保護のカホコ*3のカホコ(高畑充希)のような優しさの二面性、そんなふうに見える。ここへ来て絶望や障害と並ぶ優しさを遊川が1話から描いたこと、そのことに私はなんだか気持ちが高まってしまうのです。

かつて描いてきたものをアップデートさせながら何度も同じ大きなテーマに挑んでいく遊川和彦。これが『純と愛』『◯◯妻』のような過剰な絶望になってしまうか、『過保護のカホコ』のようなユートピア的世界になっていくのかはまだわからないけれど、今回はどうやって愛に挑んでいくのか、ぜひ観てみてはいかがでしょうか。今から第2話を観まーす。

チャイルドロック@yama51aqua

*1:漫画のキャラクターのような超人的なキャラクター。遊川はスーパーキャラクターと呼んでいる。

*2:女王の教室志田未来が演じた役は神田和"美"。志田未来は和美が大人になった姿を、というイメージで和実を演じているらしい

*3:カホコには逆にユートピアに寄り過ぎのように感じた