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ゾンビドラマなのにやさしい『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』

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NHKがゾンビドラマを作るということで真っ先に想像したのが「カメラを止めるな!」ブームへの便乗だけど、ブームから一年も経っていないのでどこまで影響しているかはわからないし、そもそも内容は全然違う。だから結局のところ「ウォーキング・デッド」への日本からの回答なのかもしれないけど、「これ、回答になっているのか?」という疑問が頭をよぎる。

一体これは何なのか?その疑問だけで全8回完走してしまった。ざっくりした感想だけど、とてもやさしいゾンビドラマだったと思う。それは結局のところ、争いがなかったからだ。このドラマは人間がゾンビを必要以上に攻撃する場面はなかったし、ゾンビが人間を食い尽くすこともなかった(齧りはする)。人間が人間を攻撃する場面もなかった。

それはタイトルの「人生見つめ直した」の部分が大きかったからだ。主人公は夫と別居状態にありながら離婚届を出さない。でも愛情もない。一方でその夫は主人公の親友と不倫している。その親友は地元のあまり良いとは言えない職場で働いている。もうひとりの親友は妊娠できない悩みを持ちながら愛情表現が下手なバツイチの強面の男と付き合っていて、その男には娘が居る。そしてその娘は一緒に住む母親に疎まれている。主人公の妹は一刻も早く地元を出て東京に行きたがっている。でも父親はリストラされてコンビニで働き、娘の大学進学に後ろ向きだったりする……とまあ、大丈夫かと言いたくなるくらいみんな悩みを抱えている。そしてゾンビが登場することで平穏(?)な日常は終わりを告げ、みんなが人生を見つめ直すことになる。

なぜ自分がこのドラマを完走できたのかを考え続けていたのだが、やはり「どうなるのか」が気になったからだと思う。つまりこのドラマの製作者がこの奇想天外で摩訶不思議な世界に対してどう落とし前を付けるのか。その緊張を最後まで持続し続けたのは見事だった。

そしてゾンビ作品でありながらゾンビのグロテスクさが薄れていること、人間の暴力性をテーマとして掲げないことは他作品と差別化を図る上でもよくできていたと思う。日本が舞台だけあってみんなが銃を持っているわけでもないし(でも一応銃はある)、ゾンビもそこまで暴力的ではないし、その理由が一応説明されているのも良かった。暴力的ではないゾンビが現れる世界を彩る小山絵里奈の音楽も抜群だった。

ただ、視聴者を引き付けるだけの謎は用意されているものの、それに見合うような解答が用意されていたとは個人的には思えなかった。でもまあ、物語に対して納得できる解答を用意することが必ずしも正しいわけではなく、むしろ観ている人を結末まで連れて行くことのほうが大事なので、その辺りは観た人が判断すればいい。NHKがゾンビドラマをやる。その向う見ずな挑戦を讃えたい。

ぴっち(@pitti2210